概要

陽子線治療は、物理的な線量の分布において、X線治療よりも標的とするがんにより集中して根治的線量を投与可能である場合が多い。よって、既存治療と比較した安全性の向上・腫瘍制御率の向上に関する評価が必要である。一方で、先進医療に伴う個人負担、患者拝啓のバイアス、膨大なコスト等の面で第三相試験による既存治療との比較が困難な状況もあり、相応しい臨床研究の方法が模索されてきた。

2015年度の先進医療会議において、日本放射線腫瘍学会(JASTRO)が全陽子線治療施設を取りまとめ、先進医療Bでの臨床研究を進める一方で、それ以外の疾患・病態に関しては、先進医療Aの枠組みで、統一治療方針での治療、全国の全陽子線治療患者の登録、そして各施設への訪問調査を行うことが定められた(粒子線治療の取り扱いについて(先-5. 28.5.12.))。

本研究は、このような陽子線治療施設の臨床研究を本年度から進めるにあたり、各施設の臨床研究体制の実情を調査し、必章に応じて改善し、全例登録システムを活用した既存治療との安全性・効果の比較を次年度以降に可能とすることを研究目的とする。具体的には、研究代表・分担研究者らがJASTROと連携し、全陽子線治療実施施設のアンケート調査を今年度中に行い、それに基づいて、各施設の臨床研究体制に必要な改善を教育的に行う。さらに、陽子線治療全施設への訪問調査プログラムを今年度中に策定し、実際の訪問調査を開始し、これらにより、全体的な臨床研究体制の品質の均一化を目指すことを目的としている。また、アンケートで、新しい先進医療Aの施設別予想症例数を把握し、日本全体での臨床研究スケジュールの精度を上げる。同資料は今後の先進医療Bでの臨床試験候補疾患・病態を決定するための基礎資料ともなる。

同訪問調査は、先進医療会議の決定で、本年度から開始することが必要であり、よって、訪問調査のプログラム策定を本年度中に完了する必要があるため、本研究も本年からの開始が必要である。成果物として、アンケート調査結果、策定された訪問調査プログラムの概要、訪問結果のまとめを研究研究報告書として公表する。一定のマニュアルに基づいた同訪問調査のプログラムを策定することで、今後も持続的に共同臨床研究の施設基準保証を調査するための基盤が整備される。

これらの成果は、今後のがん医療やがん研究に関する厚生労働省の施策等へ活用できる。また、適切な施設配置、適切な保健医療計画への資料を提供することとなる。

研究代表者

 白土 博樹  北海道大学大学院医学研究科・放射線腫瘍学 教授

研究分担者

 櫻井 英幸  筑波大学医学医療系 教授 
 秋元 哲夫  国立がん研究センター東札幌病院 副院長
 村山 重行  静岡県立静岡がんセンター 部長
 沖本 智昭  兵庫県立粒子線医療センター 院長
 清水 伸一  北海道大学大学院医学研究科 教授

研究協力施設

 平成28年11月時点での国内全陽子線治療・重粒子線治療先進医療実施施設

研究の目的、必要性及び特色・独創的な点

(1)陽子線治療は、物理的な線量の分布において、X線治療よりも標的とするがんにより集中して根治的線量を投与可能である場合が多い。よって、既存治療と比較した安全性・生存率の向上に関する評価が必要である一方で、先進医療に伴う個人負担、標準的治療を行う患者群との患者背景のバイアス、第三相試験に必要な膨大なコスト等の面で、既存治療との比較が困難な状況もあり、相応しい臨床研究の方法が模索されてきた。

(2)2015年度の先進医療会議において、日本放射線腫瘍学会(JASTRO)が全陽子線治療施設を取りまとめ、先進医療Bでの臨床研究を進める一方で、それ以外の疾患・病態に関しては、先進医療Aの枠組みで、統一治療方針での治療、全国の全陽子線治療患者の登録、そして各施設への訪問調査を行うことが定められた(粒子線治療の取り扱いについて(先-5.28.5.12.)。しかし、実際には、陽子線治療に特化した単独診療科施設もあるなど、キャンサーボードの開催方法や、患者経過観察に関して、多施設共同の臨床研究の質の担保を如何に行うかが課題であった。

(3)このような背景のもと、本研究は、陽子線治療施設の多施設臨床研究を進めるにあたり、各施設の臨床研究体制の実情を調査し、データ収集を行うための改善点を見極め、今年度以降の臨床研究・診療の質を担保することを目的としている。研究代表・分担研究者らがJASTROと連携し、全陽子線治療実施施設のアンケート調査を今年度中に行い、それに基づいて、各施設の臨床研究体制の改善を行う。さらに、陽子線治療全施設への訪問調査プログラムを今年度中に策定し、実際の訪問調査による改善度のチェックを通して、全体的な臨床研究体制の品質の均一化を目指すことを目的としている。

(4)また、アンケートで、新しい先進医療Aの施設別予想症例数を把握し、日本全体での臨床研究スケジュールの精度を上げる。同資料は今後の先進医療Bでの臨床試験候補疾患・病態を決定するための基礎資料ともなる。

(5)全陽子線治療実施施設アンケート調査に基づき、共同臨床研究の施設基盤を整備し、各施設陽子線治療の診療実態を明らかににするための訪問調査のプログラムを作成する。今年度訪問する施設と、訪問時に調査する項目を決定し、実際に2施設の訪問調査を行い、施設訪問調査の結果は、各医療施設に報告し改善を促す。成果物として、アンケート調査結果、訪問調査プログラムの概要、訪問結果のまとめを研究研究報告書として公表する。)同訪問調査は、先進医療会議の決定で、本年度から開始することが必要であり、訪問調査のプログラム策定を本年度中に完了する必要があるため、本研究も本年からの開始が必要である。

(6)本研究グループは、2014年8月の先進医療連絡会議以降、重粒子線治療で行われている研究と連携しながら、精力的に陽子線治療に関する過去の我が国の治療成績を全国統一で明らかにし、既存治療に関するシステマテイック・レビューを行い、先進医療、学会、論文などで報告してきた。本研究では、先進医療Aの枠組みで、全国統一治療法で、希少疾患・病態を含めてすべての陽子線治療施設のデータを集めることで、既存治療との比較を行うという新しい試みであり、世界的にも注目されている。

期待される効果

(1)全陽子線治療施設のアンケート調査を通して、先進医療Aおよび先進医療Bの臨床研究を行うための施設側の体制強化が促進され、結果の共有で施設間の体制に伴うバイアスが減る。

(2)新たな先進医療Aの枠組みの疾患・病態毎の予想症例数が把握でき、臨床研究スケジュールの改善・精度向上が可能となる。先進医療Bに関しても同様。

(3)同訪問調査を行うことで、共同臨床研究の施設基準保証を調査するための基盤が整備される。

(4)2015年度の先進医療会議にて、日本放射線腫瘍学会が約束した、①先進医療Bの推進、②陽子線治療患者の全例登録、③統一治療方針による治療、④施設訪問による質の担保、④重粒子線治療との比較を、同学会と放射線医学総合研究所との連携により、図ることができる。

(5)これらの成果は、今後のがん医療やがん研究に関する厚生労働省の施策等へ活用できる。また、適切な施設配置、適切な保健医療計画への資料を提供することとなる。

本研究は、陽子線治療の先進医療の進め方に関して、先進医療会議から指示のある種々の問題提起に対してスピーデイに答を出し、今後、どの疾患を保健医療への導入をするか、を明確にする。粒子線治療委員会との連携、放射線医学総合研究所が重粒子線治療で行っている全例登録事業(J-CROS)との連携を密にして、先進会議への成果の報告を通して、わが国の陽子線治療の活用の方向性に関する重要な成果を上げることができる。

先進医療会議と日本放射線腫瘍学会と本研究の関係